中川恵バイオリン・ビオラ教室

脚と足と、靴のはなし

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脚と足と、靴のはなし

脚と足と、靴のはなし

2020/07/10

下半身が体を支える仕事をしていないと、上半身がそれをカバーしようとして、よけいな力が入ります。

多くの生徒さんがバイオリンのレッスンで「よけいな力を抜いて!」と言われていることでしょう。でも「よけいな力」は、理由があって入っているのです。

 

脚腰は、意識を使って修正することができるのですが、改善が難しいのが足裏。
足裏のトラブルといえば、外反母趾や偏平足が よく取りあげられる症状です。しかし、

 

●なぜ外反母趾になるのか

●なにが問題の根幹なのか

●どうすれば改善するのか

●どんな靴がいいのか

 

の定説には、腑に落ちない点がたくさんありました。

(1)問題は「開張足」

①「開張足」とは

外反母趾・内反小趾・タコや魚の目などの足裏トラブルは、前触れなく出現するのではありません。「開張足(カイチョウソク)という経過をへて なります。「開張足」は聞きなれない単語かもしれませんが、横アーチが崩れて広がっている状態のことです。

外反母趾はみなさまご存じの通り。内反小趾は、小指側が外反母趾のようになってしまうこと。
タコや魚の目は、その部分が、床や地面とこすれるからできてしまうのです。横アーチがあれば、床や地面とはこすれません。

外反母趾の主たる原因は 先のとがったパンプスである、とは過去の定説。外反母趾はパンプスを履かない男性にも見られますし、靴を履かない民族にもあるそうです。

足裏のアーチには、横アーチと縦アーチがあります。
アーチが崩れてしまっている状態、俗にいう偏平足は、縦アーチの崩れだと思われるでしょうが、実態としては横アーチの崩れが深刻なばあいが多いのです。
足指の付け根のいちばん幅広なところが 横アーチです。親指の第2関節 と 小指の第3関節 をむすんだライン。ここの外周が「足囲(ソクイ)」で、靴のワイズになります。

ご多分にもれず私も、自分の足は 外反母趾 で 偏平足 だと、長いこと思っていました。でもまじまじと観察してみると、縦アーチはそれなりに有る。
指の付け根が、横へひろがって、平らになっている。
平らだから、親指が内向きに曲がった、ように見える。
そこで初めて、横アーチが無くなってしまった状態を「開張足」と呼ぶのだ、と知りました。
体の不定愁訴が深刻になってきて、わかったのです。

●なぜ「開張足」になるのか
●どうすれば「「開張足」は良くなるのか


について、納得できる答えは 探してもありませんでした。進行を抑えることはできても改善することはない。それが通説でした。

②オーダーインソール

※京都で作ったオーダーインソールの2足


フィッター業界でも一目おかれている先生に、オーダーインソールを作ってもらったのは、2013年頃だったと思います。ドイツのオーダーインソール専用の靴が3~5万円、インソールが15千円でした。

インソール職人さんの多くがそうだと思いますが、”アーチの崩れたところをインソールでもちあげる” という考え方でした。しかしそういうカーブになった靴底は、実際できあがったものを履いてみると、とても気持ち悪いのです。

これは顎当て・肩当てに通じるものがありました。
身体のラインにぴったりフィットした肩当て・顎当ては気持ち悪いのです。

自分の身体に合った肩当て・顎当てを探しもとめていたころ、私の執念に呆れはてた職人さんから専用の丸カンナを貸してもらい、自分で顎当てを削りました。
肩当ても削りました。曲げました。細工しました。

そして肩当ても顎当ても、ピッタリは気持ちが悪い、遊びのような隙間がある方が心地よいのだ、ということが分かりました。

ガッチリした靴と、ピッタリしたインソール。
押さえつけられているような感じがしました。
体が治ろうとするのを後押ししてくれるような、履いていて足がいきいきとしてくる 靴や手法は、無いのでしょうか? 人間の体には可逆性があるはずです。

これまでインソールをオーダーした靴が2足、外反母趾の専門店で選んでもらった靴が2足あります。ひっくりかえして靴底を見ると、4足のうち2つにEEと書いてありました。それぞれ違うお店のものです。
おぼろげな記憶をたどると、計測値はEで、余裕をもってEE。と判定された気がします。どちらのお店でも。

今年も京都伊勢丹の靴屋さんで測ってもらったのですが、立位でワイズE、外反母趾は境界値と言われました。そこでは ”膝や腰に不具合は無いのですか?” と聞かれました。
そう尋ねられるほどの足裏にもかかわらず、脚腰はまったく問題ありません。自分でも脚腰と足裏にちぐはぐ感があります。

③弾力包帯やテーピング

※左から 弾力包帯、フットケア医院のテーピング、スポーツ用テーピングとアンダーラップ、ニューバランスのサポーター、地磁場を補うガイアス足裏パッド

横アーチを弾力包帯できつく巻いて、開帳足を治す療法もあります。ものすごく対処療法ですが、症状が改善する事例があるようです。医師の方が取り組まれており、「外反母趾」「弾力包帯」のキーワードでネット検索でも情報が見つかります。スポーツ用の非伸縮テープで巻いても、同様の固定ができます。

横アーチに巻くサポーターは、治療用やスポーツ用のものが色々あります。

私は朝起きてから一通りの家事を終えるまでの数時間、テーピングすることがあります。また長靴で農作業するときします。長靴のなかは足が横にすべりやすいからです。靴の中で足が横すべりすると「開張」を助長します。スポーツやハイキングをする時も良いと思います。

長時間やるのは、かえって足に悪いと感じています。あるフィッターさんにも、日常的にやるのは足の甲のすじを痛めると言われました。

私がしているテーピングの詳細は、2021.10.10 バイオリンの弾きやすさと足の裏  にテーピングした足の写真とともに掲載しています。

④5本指ソックス

5本指ソックスを試していた時期がありました。様々な布地や厚みの靴下を試しました。しかし無意識に脱いでしまうのです。不快なのです。

”ただでさえ「開張」しているのに、指と指のあいだに布が2枚入るのは「開張」を助長してるのでは? それで体がいやがるのでは?”
外反母趾の専門店でそう言ったら、 ”あなたの感じ方がおかしい” という返事が返ってきました。

私は自分の感じ方がおかしいとはどうしても思えませんでした。

のちに出会った水谷慶高(ヨシタカ)さんは、私と同じ考えを持っておられました。水口さんは、足部/下肢における運動生成や病理のプロフェッショナル。トップアスリートのコーチングもされています。スポーツ医学の観点から、外反母趾や開帳足の問題に切り込んでおられます。


(2)開張足にさかのぼる要因「過剰回内」

「開帳足」をさかのぼる要因に、膝の「過剰回内」があります。整理して理解するには、水谷慶高(ヨシタカ)さんの本「足についての本当の知識」をお勧めします。京田辺市の図書館にあります。

①「過剰回内」とは

ネットで「過剰回内」と検索してみてください。
「過剰回内」とは「過剰に回内している」という意味の名詞で、体の部位を示す情報は含まれていないにもかかわらず、『膝(膝蓋骨)の「過剰回内」が足裏トラブルにつながる』との情報がどっさり表示されます。

「回内」とは、体の動作の方向性を示す 専門用語です。膝が「回内」するとは、膝が「内側の下側」へ向くことです。膝だけが内の下へ向くことはできませんから、脚や腰も歪みます。

西欧諸国では、足病医学という科目があり、足病医という専門家がいます。そして外反母趾などの足裏トラブルは、「過剰回内」から始まるとされてます。以下のように進行するのです。

過剰回内 →足首の崩れ →開張足 →外反母趾など

すねの骨と 足指の骨のあいだに、じゃり石のような骨が7つあります。足根骨(ソッコンコツ)と言います。
7つの中で 1つだけ、足底面にない骨があります。すねの骨との中継をしている「距骨(キョコツ)」です。

「距骨」には全体重が乗ります。足底面6つの骨への中継地点になっているのです。「足首の崩れ」とは、これらの配置が 崩れてしまった状態を指します。

たいていの骨には、筋肉がついています。筋肉が骨と骨をつないで、体を動かしています。しかし「距骨」には、筋肉がついていないのだそうです。(距骨は、靭帯によって、隣接する骨とつながっています。)

手首にもじゃり石があります。
両手両足の骨の数は 25強 ✕ 4 ≒ 100余。体全体の骨は200余なので、半分が手足の骨なのです。


過剰回内から足裏トラブルへ発展するとの説は、自分の体の実感として非常に納得がいきました。自分の脚を観察すると「回内」気味でした。膝を外&上へ向けるように意識すると少し動かせそうでした。

それからは常に膝を意識して立ったり歩いたりするようになりました。数年かかりましたが、腹~腰~脚にかけての外的ライン、インナーマッスル等の内面が、ずいぶん変化しました。

膝を内側や外側へ向ける筋肉は、股関節のまわりにあります。

腹部インナーマッスルの低下
 →股関節マッスルの低下
  →膝の過剰回内


ということが言えると思います。膝の向きを気をつけることで、股関節や腹部のインナーマッスルが働くようになってきました。バイオリンが弾きやすくなったことは、言うまでもありません。

日本人の7割が過剰回内だそうです。
生徒さんたちを見ていても、そう思います。

レッスンで一部の生徒さんに、膝の向きを変える指導をしてみたことがあります。外側&上向きを同時にやるのは難しいので、「外へ向ける」「上へ向ける」を別々に指示してバイオリンを弾いてもらうと、おひとり劇的に変わった方がおられました。
彼女はそれまでにも、”体をこうしてみましょう” という私の一見バイオリンとは関係なさそうな話を素直に実践する方でしたが、その経験以降 よりいっそうヘンテコ指示に意欲的に励むようになり、ぐんぐん上達していきました。

何故わたしたちの膝は、回内気味になってきたのか?
体を動かさなくなったのが最大の要因でしょう。ほかに身の回りに合成化学物質が増えたこと、地磁気が弱くなり人工電磁波が強くなったことも、原因としてあると思います。

②スーパーフィート

※写真左の黄色いのは踵の高い靴用、右端はパンプス用

 

足裏のアーチは、足裏の下から持ちあげても戻りません。でもほかに有効な手だてがないので、足裏からのアプローチをみな考えます。多くのフィッターやお医者さんは、アーチの崩れたところを持ち上げるインソールを競って作ります。

米国の足病医学にもとづいて開発されたスーパーフィートというインソールは、思想がまったく違います。「距骨」と6つの砂利石のあいだ「距骨 下 関節(キョコツ カ カンセツ)」をサポートするという考え方です。かかとの部分に鍵となる特許があるそうです。

このコンセプトによる商品はスーパーフィート以外にも出てきており、日本発のインソールも現在ではあります。

スーパーフィートはプロアマ問わず 走る人に評価が高く、主にスポーツ店で売っています。通常の歩行に向くタイプもあり、男性用のビジネスシューズや、パンプスに使えるものもあります。
値段は靴を買いなおすより安いですが、私が何足か使った実感では、へたりやすく寿命が短い気がします。

靴底より数mm小さめにカットして遊びをもたせるよう勧められますが、カットしすぎると指先が段差に当たって痛くなります。カットするときは、小さくしすぎないよう慎重に切りましょう。
また硬いインソールなので(その硬さにも理由があるようですが)、「開張足」につきものの魚の目やタコも痛いです。私は足側にクッションになるものを貼って使っていました。

体のパフォーマンスを上げるという視点では、優れたインソールだと思います。しかし、病気といえる段階になってしまった足裏には、すこし厳しいツールかもしれません。

京田辺市の図書館で水谷さんと出会った私は、その洞察力のすごさに直にお話ししたい!と思い、スーパーフィートの販社向け研修にもぐりこんできました。
バイオリン教室がインソールを売るのは変なので、当時学んでいたアレクサンダーテクニークを指導しながらスーパーフィートを売ると言い訳して、エントリーしました。研修にきていたのはスポーツ店の若手スタッフが多く、私はめっちゃ浮いていたと思います。

水口慶高さんのサイト


(3)開帳足と浮き指の関係

足の横アーチのところ、足側は「足囲(そくい)」と言いますが、靴側は「ワイズ」と呼びます。
靴側の話をわかりやすく書いてくれているのが、西村泰紀(タイキ)さんの本です。「その靴、痛くないですか?」「痛い靴がラクに歩ける靴になる」。いずれの本も、京田辺市・井手町の図書館にあります。
パンプス中心に書かれていますが、日本で売られている靴に問題があるのは男性も子供も同じです。

①浮き指の理由

※写真はいろいろ試しているパッド類

タコや魚の目があると足指が浮きます。
足指をおろすと、足指の付け根にあるタコや魚の目が、床や地面にあたって痛いからです。床にあたらないよう屈み指(ハンマー指)にもなります。

開帳足だと足指が浮きます。
足指をおろすと、横アーチの横広がりを、さらに押し広げてしまいます。足裏や甲のスジが痛くなります。足指を浮かせるのは、横アーチがこれ以上広がらないよう、屈み指にならないよう、体が抵抗している状態だったのでした。

スリッパで立っているときなら、タコや魚の目は痛くないので、指は降ろせるはずです。立ってるだけなら、横アーチへの荷重も、歩いている時ほどかかりません。
なのに気がついたら、持ち上げている。
座っていて、脚を組んでいて、足が宙にあっても、屈み指している。
甲の筋肉を引っぱるのが習慣化してしまっています。裏の筋肉が伸びきってしまっている、とも言えます。

②浮き指をおろす策 パッドなど

横アーチ中央の1cmかかと寄りをパッドなどで持ちあげると、「親指の付け根の母趾球」「小指の付け根の小趾球」「5本の指」が下へおろせ、立ちやすく歩きやすくなります。

もう1cmかかとに寄ると湧泉というツボ。足裏がむずがゆくなったとき、自然と手が行く場所です。
パッドを入れて持ちあげるのは湧泉のツボあたり、との考え方が主流なようです。オーダーインソールで持ち上げられてきたのは、湧泉より更にかかと寄りでした。

仕事先でも靴を脱ぐことが多いため、靴の中ではなく、家での履きものの中にパッドを仕込めないか?考えてみました。屋内で履くものは 靴よりゆったりしているので、履きもの側にパッドを入れても足裏のいい位置にきません。シリコン製のパッドを足裏に貼りつけ、そおっと履きものに入れてみました。

靴よりふかふかしている室内履きは、横アーチパッドでは薄すぎて、足裏が持ち上がりません。内側縦アーチ用の厚みのあるパッドがちょうどいいです。うまく足指が下がると、腹部がすっきりと感じられ、意識が冴えてきます。


台所などで立っているときに足指を上げていると気づいたら、そおっと降ろします。そして、全身へ「ゆるみ」が波及するように感じます。

足裏の筋肉に気持ちのいい刺激になるのが、ゴルフボールです。机の下などに1個ころがしておいて、足裏でごろごろすると、足指がおろしやすくなります。


(4)足を支えてくれる靴とは

※大阪の外反母趾専門店でベテランフィッターさんが選んでくれた2足。
 ワイズがぶかぶかで、靴のなかで足が横すべりする。


過剰回内が足裏トラブル全般の元であることは、日本でもスポーツ界では常識となっています。ですから過剰回内に対応しようとするシューズやインソールがあります。

「空中の足の形が、本当の足の形」「地面に着地したとき、衝撃で平べったくなる足の型を、できるだけ崩さないようにするのが良い靴(インソール)」なのです。

靴のワイズはぴったり、少しきついくらいがいい。そうでないと靴のなかで足が横に揺れます。

しかしその考え方は、靴業界には来ていません。

外反母趾や開帳足の専門家だというフィッターさん達は口を揃えて、「側面をしっかり支えてくれる靴」がいいと言います。そうして勧めてくれる靴は、靴自体の側面はしっかりしていますが、靴の側面と足の側面のあいだに隙間があります。これは足の側面をしっかり支えていると言えるのでしょうか?

ワイズはゆったりした靴を選び、足の横揺れは上下からはさんで止める。
上からは紐やベルト。下からはインソール。
横長につぶれている「足囲」を、さらに横長にするのでしょうか。

”靴のなかで足がずれると履きにくいので、きつめがいい” と、前後ぴったりの靴を勧めてくれた店員さんもいました。部分的には合っています。店員さんが見立てたより1サイズ大きいのを買ったのに、足指と靴のあいだがきちきちです。

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