楽器店とバイオリン工房 利用の仕方
2023/03/08
楽器店には、「バイオリン・ビオラ・チェロ(・コントラバス)を主に扱っている楽器店」と「いろんな楽器を扱っている楽器店」があります。バイオリンを買ったり調整したりするのは、前者の楽器店にしましょう。
この記事では、「バイオリン・ビオラ・チェロ(・コントラバス)を主に扱っている楽器店」のことを、楽器店と表記しています。
楽器店とバイオリン工房は、
(1)バイオリンを売っている
(2)バイオリンのメンテナンスをしている
という点で同じなのですが、商売の生い立ちが違うため、得意分野が違います。
楽器店はバイオリンを売るのがメインのお店で、経営者がいて、社員の店員さんがいます。
バイオリン工房は、バイオリンを作ったり直したりする職人さんが経営者です。
ひと昔前には、「うちはバイオリンを売っているお店で、メンテナンスのことは知らない」「うちはメンテナンスのお店で、販売は本業じゃない」ということもありました。
最近は商売の競争が激しくなったこともあり、だんだん垣根がなくなってきました。
楽器店にも、職人さんが駐在していることがあります。社員として雇っているところもあれば、提携しているだけで、特定の日しか居ないこともあります。
この記事では
(1)バイオリンや備品を買いたい
①新品のバイオリン
②中古のバイオリン
③オールドのバイオリン
④新作のバイオリン
⑤フィッティングパーツ
⑥付属品、備品
(2)バイオリンのメンテナンスをしたい
①弓の毛替え
②弦の交換
③バイオリンの調整・修理
という章立てで、楽器店・バイオリン工房のどちらをどう利用したらいいかについて、説明したいと思います。
(1)バイオリンや備品を買いたい
ブランドではなく、値段ではなく、信頼できると感じたアフターケアの良いお店で買いましょう。
バイオリン工房と比べたときの、楽器店 最大の利点は、予約を入れずふらっと立ち寄れる点です。また楽器を弾かせてもらった後でも、「少し考えます」と言って帰りやすい点です。もちろんバイオリン工房であっても、出してもらった楽器に納得が行かなければ断っていいのですが。
昨今はなんでもネットで買えますが、バイオリンは木でできているので、木目や色合い・重さや質感がそれぞれ違います。実物を見て、触って、選びましょう。
分数バイオリンや初心者向けバイオリンを、自分で買う経験を積んでおくと、高価なバイオリンを買うときビビらずにすみます。
①新品(*1) のバイオリン
(*1) 工場で作られた品番のある量産品を「新品」、工房で作られたものを「新作」と呼ぶことにします。
新品は、原則どこで買っても同じです。例えばスズキというブランドのNo.230という品番のバイオリンセットは、どこで購入しても同じ。ネットで買っても同じです。
しかし木工品であるバイオリンは、1点づつ微妙に違うので、実物を確認して買う方が納得性が高まります。工業製品のように均質ではなく、瑕疵が隠れていることもゼロではありません。
また更に言えば、流通ルートによって、同じ品番のものでも最終工程を簡素化して、売価を下げているバイオリンがあります。
1台目の楽器として新品のバイオリンを買うなら、大きめの楽器店で、店頭に並んでいるものの中から選ぶのがいいと思います。大きな楽器店に行けない地方都市在住のばあいは、大きな楽器店のネットショップ、信頼できそうなネットonlyショップでもいいでしょう。
規模の小さな楽器店やバイオリン工房では、分数バイオリンや初心者向けバイオリンが店頭に無いことがあります。そうした場合取り寄せになりますが、届いたものが気に入らなくてもキャンセルできなかったり、納期がはっきりしなかったりするリスクがあります。
②中古(*2) のバイオリン
(*2) 使い古して値が下がったものを「中古バイオリン」、エイジングにより値が上がったものを「オールドバイオリン」と呼ぶことにします。
中古バイオリンは、新品以上に、どこで買うかが大切です。思わぬ瑕疵が隠れているリスクがあるからです。そのため多くの楽器店では、中古バイオリンの買い取りに積極的ではありません。
中古バイオリンが楽器店に並んでなくて、メルカリやネットオークションに溢れているのは、そういう事情があるのです。
中古バイオリンで探す生徒さんは、少しでも安く節約したいと考えています。そうした方には、大阪府茨木市の「アマービレ楽器」という楽器店を紹介します。送ってもらうこともできる(関西圏でない方は、そうなさってください)のですが、可能なら現地で実物を触って選びましょう、とお勧めしています。
また大阪梅田の楽器店「クロサワバイオリン」も、新品と中古いくつかの選択肢のなかから、分数バイオリン・初心者向けバイオリンを買うことができます。
メルカリやネットオークションで買う方法もあります。手に入る楽器の品質と、購入価格の平均値を取れば、割安になるでしょう。
問題はアタリとハズレの差が大きいことです。アタリを手に入れた生徒さんもいれば、修理代がかかりすぎるため新品のバイオリンを買い直した生徒さんもいます。
枚方のバイオリン工房では、流通過程にある中古バイオリンを調整する仕事もしています。調整が終わったバイオリンは、楽器店で売られるわけですが、職人さんが「これはいい」と思った楽器を仕入れてしまい、自分のお店で売ることもできます。
私のバイオリン・ビオラ教室では、生徒が中古バイオリンを探すとき、枚方の工房に頼んで用意してもらうことがあります。
こうした買い方の難点は、キャンセル不可で、自分で選べない点です。それでよければ、楽器店の店頭に並んだものの中からさがすより、質の高いバイオリンが手にはいります。
③オールド(*2) のバイオリン
中古バイオリン以上に、どこで買うかが大切です。問題が発生する可能性は、新品や中古のバイオリンより更に上がります。となればやはり、後から調整や修理をしてもらう可能性をかんがみ、職人さんのいるお店で買いましょう。
職人さんが時折いるお店より、常駐しているお店。常駐しているお店より、職人さんがオーナーのお店(すなわちバイオリン工房)がいいです。人は、責任が大きい立場に置かれているほど、良い仕事をしようとします。
業界の慣習として、自分のところで販売した楽器の調整・修理は、買って間もなければ無償です。また時間がたっても、自分のところで販売した楽器には、なにかと考慮してくれます。下取り価格も違います。
通常、楽器店やバイオリン工房などの販売店は、輸入卸業者からバイオリンを仕入れて売ります。
しかし中には、自ら欧州へバイオリンの買い付けに渡航する販売店もあります。大阪の楽器店「国際楽器社」などがそうです。輸入卸業者が介在しないぶん、店頭価格は安くなります。
また輸入卸業者から直接購入できれば、販売店が介在しないぶん安くなります。
私のお勧めするオールドの探し方は、信頼できるバイオリン工房の職人さんに、こんな楽器が欲しいから目を光らせておいて、とお願いすることです。ディープな楽器店さんでもいいと思います。
毛替えや調整で定期的に足を運び、待ち時間に店内にある楽器を試弾させてもらうなど、お店の方に自分を知ってもらうようにしましょう。
この方法の難点は、時間がかかることです。
④新作(*1) のバイオリン
私のイチオシは日本製。日本の職人さんが、自分のバイオリン工房で作っているバイオリンです。
日本の職人さんは、バイオリン製作の国際コンクールで入賞している方もたくさんおられます。海外の演奏家が、日本の職人さんに修理を託しに来ることもあります。
阪神淡路大震災で数千万円のオールドバイオリンを壊してしまった方から、海外の〇〇さんに直してもらうか京都の△△さんに直してもらうか迷った末、京都に持っていったと聞きました。それくらい日本の職人さんの腕は信頼されているのです。
日本製以外では、人件費の安い第三国の製品に、良いものがあります。ルーマニア製、中国製などで、良いものを見たことがあります。
イタリアのバイオリン工房で作られたものが華々しく売られていますが、日本ではイタリア製への信仰が過剰に高いため、割高です。
日本の職人さんの新作バイオリンにするなら、オーダーして作ってもらうこともできますが、意図したのと違うバイオリンが出来あがってくることもあります。完成しているものの中から、気に入るバイオリンを探すのがいいでしょう。
関西ですと、関西弦楽器製作者協会という組織に多くの職人さんが所属し、ときおり展示会をやっています。職人さんたちが自作の楽器を一斉に展示するので、どんな製作者さんがいるのか、どんな楽器があるのか、一網打尽にできます。
日本の職人さんの新作バイオリンを買った場合の難点は、ほかの職人さんに調整・修繕をしてもらえない可能性がある点です。これは新作バイオリンにかぎらず、あります。
他の工房で買ったものは、うちでは面倒みないよ、的なことがあるのです。私も遭遇しました。しかし若い世代の職人さんたちの意識は変わりつつあるので、過剰に心配しなくて大丈夫です。
⑤フィッティングパーツ(顎当て・ペグ・テールピース・エンドピン)
フィッティングパーツの購入と交換は、楽器店でもバイオリン工房でも可能です。
「いろんな楽器を扱っている楽器店」では、購入はできても、交換できる店員さんがいないことがあります。
フィッティングパーツは、単に取り付けるだけでなく、位置を調整して欲しかったり、削って欲しいこともあるでしょう。とくに顎当ては、演奏のパフォーマンスに直結します。
交換以上のことを頼みたい時は、(2)③を参考に。
⑥付属品(肩当て)、備品(ケース・チューナー・譜面台・教本)
どこで買っても同じものが手に入ります。
ですが、こんな体験をしたことがあります。
東洋楽器のバイオリンケースをネットで買いました。実店舗で買うより安かったからです。
しかしほどなくして、弓を固定するボウホルダー(弓止めプロペラ)が効かなくなってきました。
ボウホルダーを交換すればいいのでは?と考え、その部分を見てもらい、交換部品を取り寄せてもらうために、とある楽器店へ行きました。
そのときの店員さんが、「これもしかして直せるかも、やってみていいですか?」と言って、ボウホルダーを取り外して中の機構をリセットし、直してくれたのです。
がびょ~ん!
もちろん無料です。
ネット店の利便性もありますが、実店舗へ足へ運ぶ買い方っちゅーのはあなどれん!と感じた一件でした。
「次にバイオリンケースを買うときは、この楽器店で買おう!」と心に決めたのですが、その直してもらったバイオリンケースはまだ使えています。。
(2)バイオリンのメンテナンスをしたい
①弓の毛替え
弓の毛替えは、職人さんにしてもらう作業です。ですから、職人さんが店主であるバイオリン工房に持ち込むのがベストです。職人さんがおられる楽器店でもいいです。
1つのお店に、職人さんは1人のことが多いので、持っていくときは必ず予約をしてください。1時間ほどで作業してくれます。
職人さんがおられない楽器店では、弓を預けることで、毛替えしてもらうことができます。通常一週間の預かりとなり、弓は宅急便などで提携している職人さんへ送られます。
毛替えの勉強をしていない店員さんが、見よう見まねで作業をする楽器店やネットショップがあります。
そんなこともあり、作業はその場でしてもらうのがベターです。
その場でしてもらうと、職人さんとの会話が発生します。弓や楽器の調子について話せますし、思いもしなかった情報が入ってくることもあります。
「1時間くらいかかるから買い物にでも行ってきて」と言われることがありますが、私の考えでは職人さんと会話しないと損です。
楽器の点検もしてもらいましょう。職人さんはシャイな方が多いので、自分から「楽器も点検しときましょうか?」と言い出さないことがあります。そんなときは「見てください」と自分から言いましょう。
②弦の交換
弦の交換は、弓の毛替えより短い間隔で必要となります。自分でできるので、やり方を憶えましょう。
とは言っても、バイオリンを習い始めたばかりで憶えることが沢山あるときに、弦の交換まで憶えるのは大変。そんな時は楽器店やバイオリン工房へ行って弦を買い、そこで換えてもらいましょう。多くの楽器店・工房では、弦を買えば、交換は無料でしてくれます。
「いろんな楽器を扱っている楽器店」では、バイオリンの弦は売っていても、弦の交換ができる店員さんが限られます。弦の交換のやり方がまずいと、バイオリンの調子が悪くなり、破損につながることもあります。
③バイオリンの調整・修理
バイオリンの調整や修理は、毛替えと同様、職人さんの仕事です。調整・修理をしてくれる人と直接対話ができるお店へ、持っていきましょう。
工房も楽器店も、職人さんは1人体制のことが多いので、持ちこむときは予約をしてください。予約は大げさだと感じるような悩みの場合、楽器店にふらりと立ち寄ってもいいのですが、楽器店や工房サイドでは、大した内容でなくても予約してくれる方をありがたく感じます。
楽器店ですと間接費がかかるため、料金はバイオリン工房より高くなります。もしくは職人さんの手にわたる手間賃が安くなります。
職人さんがいない楽器店でも、直してほしいバイオリンや弓を、提携している職人さんへ送ってもらうことができます。
しかし異音がするなど音に関する悩みのばあい、希望通りに仕上がってくるかわかりません。修理にしても、いろんな解決方法があるかもしれません。
間接的に請けおう職人さんも、自分がいい仕事ができているか不安です。
楽器店と提携関係にある職人さんは、たいてい自分のお店(バイオリン工房)を開いています。そちらを訪問するか、訪問できなくても直接連絡して送るか、する方が、自分の思いに近い調整・修理がしてもらえます。
ペグとペグ穴が合わないビオラを、調整してほしいと頼んだことがありました。ペグとペグ穴の再調整は、預かりで数万円かかります。
ところが職人さんは、その場でペグソープをたっぷりと塗って、「これでしばらく様子を見なはれ」と返してくれました。そして「ペグの再調整は大がかりやから、如何ともしがたい状態になるまではペグソープの厚塗りで対応しなさい」と教えてくれました。
職人さんにしてみれば、依頼通り作業するほうが儲かったはずです。
修理の場合、所要時間が長かったり読めなかったりすると、預かりになります。予約を取るとき、内容をできるだけ詳しく伝え、その場で直してもらうのか預かりにするのか事前に目途をつけましょう。できる限り、その場で直してもらうことをお勧めします。
その場でしてもらうと、日頃から疑問に思っていたことなどを尋ねることができます。また職人さんも、「ここはAの方法ではなく、Bで直していいですか?」など途中で思いついた考えを、お客さんに確認することができます。
私は毛替えに行ったついでに、あちこち微調整してもらって、3時間バイオリン工房にいることは珍しくありません。手帳を開いて、そこに書き留めてある生徒たちの楽器の気になる点について、職人さんを質問攻めにします。どうしたらよいか悩んでいた生徒の楽器の問題を、職人さんからの提案によって救ってもらうこともあります。
私がバイオリンを預かりにしたのは、1回だけ、ネックが本体から外れたときです。ネックと本体の接点は、時代や職人により様々なやり方でつないでおり、中には外れたときに直すのが難しいものもあります。職人さんはじーっと私の楽器を見つめ、少し考える時間をくれるか、と言い、替えのバイオリンを貸し出してくれました。