基礎練習 教本と使い方 [5] その他
2020/05/23
私がレッスンで用いている基礎練習用の教本と、その使い方をご紹介しています。
(1)カイザー
カイザーは12曲✕3冊のエチュード集です。1巻はポジションなし、2巻のNo.13からポジションが出てきて、最後は7th まで行きます。すごく良い曲もあるのですが、変なのもあります。
3冊に分かれたオリジナルのカイザーより、1冊にまとまっている「やさしいカイザー」が良書と思います。
①長さがコンパクト
②易しい応用練習が付いている
ところがお勧めする理由です。先生につかず、自習することもできます。
応用練習は3~4つづつ出題されており、ボーイングの奏法、マルトレやスラーを組み合わせた課題が多く、知らぬ間にいろんな弾き方を身につけられます。
(2)ホーマン
ホーマンは1巻から4巻まであります。
いかにも基礎練習という楽譜は受けつけない生徒さん、また、つまらない練習をマジメにやってしまう生徒さんに適します。
基礎練習アレルギーの生徒さんも、見た目に抵抗のない楽譜を用いてフォーム改善の面白さ・達成感にめざめると、単調な練習にも取り組めるよう変わってきます。
◆ホーマン1はバイオリン初心者さんにほどよい難易度なのですが、ハ長調が多いので、私はあまり使いません。
◆ホーマン23は調ごとの章立てで、スケール/エチュード/デュエットと、長さも調もリズムも多彩な課題が収録されています。楽しそうな見た目で、生徒さんごとに多様な使い方ができるため、重宝しています。
平易な練習が必要な生徒は、スケールやシンプルなエチュードに時間をかけます。3拍子が苦手な生徒は、3拍子を重点的に、またはパスして。アンサンブルが好きな生徒には、デュエットをご褒美にして宿題を出したりします。
楽譜にないスラーをつけたり、スタッカートをつけたり、生徒に合わせて課題をアレンジします。ホーマン3までは 1stポジションで弾けるのですが、全部 3rd にしたり、ポジションを上下させることもあります。
◆ホーマン4はポジションごとの章立てです。[4]ポジション移動 の(3)で取り上げています。
「40 Variations」との副題のとおり、バラエティに富んだ練習曲が収められており、Sevcikシリーズのなかでは最も取り組みやすい1冊です。ポジションは殆ど出てこないのですが、きちんとやろうとするとなかなか難しいです。
◆ spiccato と書かれた Var. が多いですが、spiccato は向かないのでは?(難易度が高いのでは?)と感じる素材も多いです。そうした場合は、マルトレでやるとよいと思います。
◆速度の指定が速いものが多いです。速度を落として丁寧にやるほうが、基礎練習になると思います。
「置いて弾く」「置いたとき直角」
「発音したときが一番大きい(後膨らみしない)」
「弓のスピードを落とさず折りかえす」
など、身につけるべき基礎は沢山あります。
◆ Var.1~4 は元弓の練習に使うことができます。
弓元 1/4 でやってみましょう。
それができたら、1/2 1/8 などでも。
Sevcikシリーズでは、Op.6 が初心者向けに書かれた本なのですが、難しめです。全7巻のうち5巻までは 1stポジションで、たくさんの素材がのっています。Duet曲もあり、地道な練習をがんばってもらおうとの配慮がうかがえます。
(4)クロイツェル
[3]左指の置き方 で紹介した「クロイツェル」ですが、運弓を練習する使い方についてご紹介します。
◆ No.1
4分音符60で。
楽譜のスラーがむずかしい場合は、4拍で返します。
◆ No.2
81個のボーイングパターンが載っていますが、まずはベーシックな使い方について、説明します。
①②③④
弓中、上半分、下半分、先1/4、元1/4 などでやる。
⑩⑪⑫
弓中、全弓、上半分、下半分などで。
⑤⑥⑨
1音で弓の半分を使う。1音で弓の1/4を使う。
さらに、デタシェ・マルトレ・スピッカート など弓づかいを変えればいくらでもやることがあります。
例として、最初の2音が8分音符、次の3音が3連符、最後の3音が3連符のものを見てください。
最初の2音は、デタシェ・マルトレの弾き方ができます。
次の3音は、デタシェ・スピッカート・スラーの弾き方ができます。
最後の3音も同様。
2×3×3=18通りの弾き方が作れます。
No.2 は長いので、同じ弾き方で最後まで行こうとすると集中力が切れてきます。この辺でと思うところで止まると、最初の方ばかりするハメになります。進みながら弾き方を変えていくと、最後まで行けて、短時間でたくさんのパターンの練習ができます。
これはちょっと極端な例です。運弓というより、認識力が鍛えられます。
(5)曲らしく弾く
意外に思われるかも知れませんが、大人の生徒さんの中には「曲らしく弾く」ことが苦手な方がおられます。
大概がまじめな人です。
一番いい処方箋は、自分で好きな曲を選んで弾くことです。先生には見てもらわない方がいいです。先生とは「正しい弾き方」を追求してしまう生き物だからです。好きな曲を弾くのに「正しい弾き方」も「正しくない弾き方」もありません。
好きなように弾くことができない生徒さんに使うのは、「やさしいヴァイオリン曲集」などの曲集本です。教本だと「ホーマン」「スズキ」。先生とのアンサンブルも取り入れます。