中川恵バイオリン・ビオラ教室

バイオリン・ビオラ 駒の調整

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バイオリン・ビオラ 駒の調整

バイオリン・ビオラ 駒の調整

2020/10/11

バイオリン・ビオラ・チェロなどの弦楽器専門店へ行くと、駒や魂柱がパーツとして売っていることがあります。値段も安いので、買ってみたくなります。しかし駒も魂柱も、買ってそのまま楽器に装着することはできません。削らないと使えないのです。やってみたら分かります。

 

楽器を弾いていると、駒の傾きが変わったり、位置が動いたりします。これは自分でチェック・修正できます。レッスンで先生に調弦してもらっていれば、先生がしてくれます。

とくに分数バイオリンはよく駒が動きます。子供のうちは楽器をていねいに扱えないので、知らないあいだに何かに当たっているのでしょう。サイズが小さい程かかっている圧が低いのも、動きやすい理由です。

(1)自分ですべき駒の調整

①駒の傾き

駒の傾きは、テールピース側の面を、楽器の表板と垂直にします。指板側の面は90度+αの角度になります。弦を張り替えたばかりの時は、弦が伸びていくにつれて傾きが変わってゆくので、こまめにチェックしましょう。

駒の傾きを直すときは、楽器のエンドピン側を自分のおなかに向けて、楽器が動かないようしっかりかかえ、両手で駒の両側の上端を持って、手前に「くいっ」と押します。

「くいっ」が強すぎると、駒が倒れます。まず慎重な力加減で押して、動かなければ押す強さを増していきます。
動かないけれど、これ以上強く押したら駒が倒れそう、というときは、一旦ペグをゆるめます。E線側の方がテンションが高いので、E線A線をゆるめて再トライしてみましょう。ペグをゆるめて駒を動かしたばあいは、あとでペグを戻すことも計算に入れて、駒の傾き具合を決めます。

E線のみアジャスター、ほかの弦はペグで調弦しているばあいは、駒がねじれてきます。E線はアジャスターのほうへ、G線はペグのほうへ引っ張るからです。駒の傾きをテールピース側へ修正するときは、G線側を強めにしましょう。駒の溝に柔らかいエンピツの芯を塗ると、ねじれの予防になります。

傾いたまま放置されていると、駒が歪曲してしまうことがあります。あわてて駒を交換せず、正しい傾きにしてしばらく様子を見ましょう。安物でなければ、まっすぐに戻ることが多いです。

弓も同様です。
強く張られて反対のそりになってしまっていた弓が、ゆるめて数週間たったら戻ったこともありました。

②駒の位置

左右の位置と、前後の位置があります。

前後の位置は、f字孔の内側の切れ込みの位置だとも、内側と外側の切れ込みの中間の位置だとも言われますが、その どちらでもないこともあります。とくに古い楽器は違います。
バイオリン工房の職人さんに位置決めをしてもらうと、f字孔の切れ込みは参考程度にしかしません。

大阪のバイオリン工房では「指板から駒の距離」と「テールピースから駒の距離」を計って位置を決めていました。

枚方のバイオリン工房では、「ナットから駒の距離」と「テールピースから駒の距離」の比率を重要視しているようです。また左右の位置決めも、f字孔 付近だけを見るのではなく、ナットからテールピースまでの全体像を見て決めています。

岡田信博氏の本には、ネックの長さから駒の位置を割り出すとあります。

前後の位置は、後述する駒の高さによっても変わります。指板から駒が遠ざかると、指板と弦のあいだが狭くなります。指板に駒が近寄ると、指板と弦のあいだが広くなります。

前後・左右いずれも適切な位置は、弾き手の希望によって変わるし、楽器によって違います。ニスに跡がついてることもありますし、職人さんが書いた白いチョークの跡が残っている(残している)こともあります。

魂柱との位置関係が最も大切です。
順番で言うと、バスバーの位置を確認して、表面を見て駒の位置を決め、次に魂柱の位置を決める、という具合になります。楽器の調整を任せている職人さんがいるのであれば、その人が考える自分の楽器の駒のベスト位置はどこかを聞いておくと、駒が動いても自分で戻せます。

動かし方は、駒の傾き調整と同じです。軽く力を入れて動かない場合は、無理をせず、ペグをゆるめて動かしましょう。

<道草> パーツの品質について

駒や魂柱は、楽器のなかで最もテンションのかかるところです。安物だと、ねじれたり曲がったり、倒れて楽器を傷つける恐れもあります。安物の駒は、7万円の価格帯 以下の楽器に使われているのを見かけます。
とくにネット上の安い楽器は、弦が古かったり、駒が安物だったり、そのままでは使えない恐れがあります。掘り出し物のこともありますが、そうでないことの方が多いようです。

予算の都合があっても、実物を見て、音を鳴らしてみて、買いましょう。音色のわるい楽器、発音しにくい楽器、好きでない楽器では、長続きしません。バイオリンやビオラはこつこつ長く続けることで上達します。

安物の駒は、信頼できるメーカー(AUBERT等)の数分の1の値段で、恐ろしいほどの価格差があります。
標題の写真の駒に、AUBERTの刻印が入っているのが見えるでしょうか? ニセモノの刻印もあるようです。
チェロやコントラバスなど大きな楽器の方が、駒の素材の悪さの影響を受けやすいようです。

弦も同様です。弦はピラストロ社 や トマスティーク社 など、専門の楽器店で取り扱っているものにしましょう。E線は Gold brokat で問題ありません。

実店舗が近くになくてネットで買わざるをえない、そんな場合のお店選びは、
・実店舗もあり、ネットでも売っている
・高い値段の楽器も取り扱っている
・購入後の不具合にたいする方針が誠実
・電話で問い合わせができる
などを目安にしてみてください。

2020.12.02 バイオリン・ビオラはどこで買ったらいいか

(2)バイオリン工房に任せる駒の調整

先に述べたとおり、駒というパーツは削らないと使えません。職人さんの作業を見ていると、実に簡単そうに削っています。私は豆カンナ(専用の工具)を借りて顎当てを削ったことがありますが、ちょいと練習した程度では削れません。また駒を削るのは職人さんにお任せする作業ですが、どうして欲しいか決めるのは弾く人です。

①駒の脚

楽器の響きを決める、もっとも重要な作業です。楽器の表板のカーブに合わせて、ぴったり吸いつくように削ります。厚すぎると鳴りがわるく、薄すぎると強度がなくなります。

②駒の高さと厚み

左指の押さえやすさに直結するのが、駒の高さです。左指の押さえやすさを最優先して高さを決めるのが良いと思いますが、ほかにも以下のような要素があります。

・駒が高いと、音量が大きく、音がくっきりと響く
・左指を押さえるのに力がいり、良いフォームを身につけにくい
・弦の張りが強いため、弓を引くのに発音に少しコツがいる

・駒が低いと、音量が小さく、音質が柔らかい
・左指が押さえやすく、フォームを整えやすい
・弓を引くとき発音はしやすいが、くっきりした音は出にくい

初心者のうちは、ナットが高めで駒が低だと、左指は押さえやすいです。(ネックも細いとさらに押さえやすい。)なかなかそこまで調整して、習い始める、ということにはなりませんが。
新作のバイオリンには、たいてい高めの駒がついています。木は収縮・摩耗していく素材だからです。

厚みを削る作業も必要です。

・駒が厚いと、まろやかな音
・厚すぎると、鈍くてこもった音になる

・駒が薄いと、くっきりした音
・薄すぎると、きんきんする
・薄すぎると、強度がなくなる

③駒の傾斜と溝

傾斜というのは、駒の上端のカーブのことです。傾斜がないと、隣の弦を引っかけてしまいます。傾斜がありすぎると、移弦するときの腕の動きが大きくなり、重音が弾きにくくなります。
駒のカーブは、指板のカーブと合っている必要があります。指板から弦までの距離が揃っていないと、弾くときに押さえにくいからです。この距離のことを「弦高」と言います。

新品の駒はE線側とG線側が同じ高さになっていますが、E線側が低くなるよう削ります。最もテンションの高いE線を、押さえやすくするためです。G線へ行くほど、指板との距離が広がります。左指の押さえやすさは、ナット(上駒)の高さも影響します。

駒を削る作業は最後に、弦がはまる溝の位置と深さを調整します。溝は、浅いと弦がずれやすく、深いと響きが悪くなります。

年月が経つと、弦が駒に食い込んできます。細くてテンションの高いE線は食い込みやすいので、予め保護します。

・駒に象牙・黒檀の小片を埋め込む(職人さんに依頼)
・駒に透明な皮のカバーを張る(私の教室でも行っています)
・E線についている保護管をはさむ(自分でできる)
  2020.09.08 バイオリン・ビオラ 弦の交換方法  を参照

などの方法があります。音質的には何もしないのが良いと思いますが、そうなると頻繁に駒を交換しなければならなくなります。
駒に弦を食い込ませないためにも、しばらく使わない楽器は、E線A線をゆるめて保管しましょう。

④駒の幅

駒の左右の幅も、職人さんに削ってもらい狭くすることができます。バスバーの位置に駒の幅を合わせると、音響的に良くなることもあります。

4本の弦の溝も、広くしたり狭くしたりできます。一般的に手の小さな人は、指板の幅を狭めにしたうえで、駒の溝も狭くしてもらうと、左指を動かしやすくなります。

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