バイオリン・ビオラのペグがゆるむ時
2022/03/06
毎年乾燥する季節になると、ペグが戻る現象に悩まされる生徒さんが出てきます。気温や湿度は、人が思っている以上にバイオリンに影響します。ペグが戻ったら、バイオリンの置き場所や取り扱いを見直すサインだと思いましょう。持ち主が普段の取り扱いに注意すれば、ペグが戻る現象は必ず止まります。
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ペグが戻りやすいのは、
(1)持ち主の取り扱いが適切でない
(2)売り主の調整が適切でない
のが原因です。
(1)バイオリンの持ち主が気づかうべきこと
①気温・湿度の変化がないようにすべし
楽器や弦は、思っている以上に、温度・湿度の変化に敏感です。赤ちゃんと同じと考えましょう。冬や夏に車のなかに置き去りにはしてはダメです。家の中でも、日光があたる場所、冷暖房があたる場所、朝晩冷える場所などは避けてください。
新品の弦が何度も切れ、ペグが頻繁にゆるむ生徒さんがおられました。
弦の交換はバイオリン工房の職人さんがしていて、先生のチェックでも問題なし。ペグもゆるんだ都度、レッスンで私が毎回しっかり押し込んでいる。
「室内のバイオリンをおく場所は、温度・湿度の変化の少ないところですか?」とお尋ねしても、そうだとおっしゃいます。しかしペグはしょっちゅう戻ります。「レッスンに持ちだす以外、家に置いているなら、置き場所の温度・湿度の変化しか考えられないんです」というお話を何度もしていたら、ペグは戻らなくなりました。やはり置き場所でした。
戻る現象が頻繁に起きていたころは、駒にあたっている部分の弦の巻き幅が広がっていましたが、それもなくなりました。
生徒さんが「暑いところには置いていません」と言っていても、ニスが溶けていることがあります。松脂が溶けたこともありました。 人間の思う「暑い・寒い」よりも、バイオリンの方が敏感なのです。
●電子チューナーは、微細な音程の調整につかう道具で、音程が大きく下がったときは役にたちません。
そのためペグのゆるみにより音程が大きく狂ったばあい、どの程度ペグを巻き戻したらいいか分からなくなることがあります。
そうした場合のお助け道具として、調子笛(ピッチパイプ)というものがあります。4管だけのハーモニカのような器具で、バイオリン4弦の音がピンポイントで鳴ります。これを吹きながらペグを巻き上げていくと、弦を張りすぎてしまうことがなく安心です。
Hzが何種類かあります。442Hzのものを間違えないよう買ってください。
調子笛(ピッチパイプ)のかわりに、ピアノなどの鍵盤楽器を使ってもいいでしょう。
②ペグは押し込みながら回すべし
調弦でペグを回すときは、押し込みながら回しましょう。ペグは先端が細く、根元が太くなっているので、普通に回していると穴から抜ける方向へ動いてゆきます。押し込みながら回していても徐々に浮いてきます。
大事な本番前は、正面にかかえて両手でペグを押し込んでおきましょう。ゆるみやすくなっていないペグでも、1mm程のめり込んだりします。
2020.04.30 バイオリン・ビオラの調弦方法 (2)ペグでのやり方
③ペグソープを塗るべし
ペグには、ペグソープ(ペグコンポジション)を塗りましょう。
弦を取り外して塗りなおすのは手間がかかるので、弦を交換するとき塗るといいです。
ペグソープには適量があります。ペグがスムーズに回っていれば、塗らなくていいです。ペグを回すときパキパキいうならば、足しましょう。ペグを沢山塗っているのに効果がない、と感じるときは、一旦拭き取ってから塗ってみましょう。
ペグが回りにくいと楽器店や工房へ相談したばあい、良心的な職人さんならまずペグソープを塗ってみると思います。ペグとペグ穴を調整する=削り直すのは、費用も時間もかかるからです。よほどペグとペグ穴が合っていないバイオリンでなければ、ペグソープの塗り方で改善されます。
ペグソープで改善されなければ、ペグとペグ穴を削ることになります。(処置の仕方には色々なパターンがあります。) 預かりの作業になり、正規の工賃は安くありません。業界の慣習として、買ったところに依頼すると配慮してくれることがあります。(バイオリンをただ置いて売ってるだけのお店は除く)
京都市内の大手楽器店で、生徒が50万円ほどの楽器を衝動買いしてきたことがありました。
楽器そのものは良いようでしたが、アジャスターが付いていないにもかかわらず、ペグがぱきぱきいって回りません。アジャスターもない、ペグもまわらない、のでは調弦ができません。調弦できない商品を販売するのはおかしい。と生徒に伝えると、再度お店へ足を運んだようで、営業さんがペグソープを塗ってくれたと聞きました。
弦を交換するときに、どのようにペグソープを塗るかはコチラ。
バイオリン・ビオラの弦交換がなんとなく出来ている方も、手順が合っているか確認しましょう。
④弦の張り方に気をつけてみる
ペグボックス内の弦が真っすぐだと、見た目に気持ちいいし、音響的にも良さそうですが、ペグは戻りやすいです。弦をできるだけペグボックス内の壁に寄せて巻くと、ペグを押し込む方向に力が働きます。
湿度が低い季節に行うときは、ペグボックスの壁ぎりぎりまで巻いてしまわないように。湿度が高くなった時、ペグが動かなくなったり、圧でペグボックスが割れることがあります。
ペグボックスの形状は、バイオリンの性能(音質・音量)にはあまり関係がないためか、本当に様々なので、自分のバイオリン・ビオラに合った巻き方を探してください。ペグボックス内で弦同士が触れると、雑音の元になることもあります。
(2)バイオリンを引きわたす側がすること
ペグとペグ穴がぴたりと吸い付いているのが、調整が仕上がっている状態です。
最近は新品でも仕上がった状態で流通に乗ることが増えてきましたが、昔はそうではありませんでしたから、販売店で調整していました。
現在でも仕上がっていない状態で販売店に届く新品もあるし、中古は使用者が現れるまで調整されません。
ペグの知識がないところでバイオリンを購入し、あとから工房で調整費を支払うことになった楽器店の生徒さんを見てきました。職人さんのいる楽器店・工房で買っていれば、購入して持ち帰ったあとでも無料で調整してくれます。
バイオリン・ビオラを買うときは、「どれを」買うかより「どこで」買うかが大事だと申し上げてきましたが、ペグのコンディションにはそれが如実に表れます。
ペグとペグ穴の吸いつきが良好か、見分ける方法のひとつは、ペグの先端と穴の面が揃っているかです。ペグが穴に十分に埋まっていなかったり、飛び出しすぎているのは、ペグのコンディションがよくない可能性があります。
(a) ペグと穴がぴったり吸いついている
(b) ペグソープが塗ってある
(c) 回すのに力がかけやすい向きになっている
のが調整できているペグです。ストレスなくペグ調弦ができます。
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