中川恵バイオリン・ビオラ教室

眼とバイオリン

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2022/06/21

♫ 視覚は、いわゆる五感のなかで、ダントツに脳の処理能力を喰う器官 です。視覚処理に脳を使ってしまうと、身体感覚に意識を割くことができません。いかに楽に楽譜を読むか、読むという作業を減らすかは、身体のパフォーマンスを上げる重大なカギなのです。

 

視覚によらず、余計な作業は脳の空き容量を低下させ、バイオリンを弾くための真に必要なことができなくなります。

 

●今「ド」から「ミ」へ上がったときの音程はどう感じましたか? 少し低くなかったですか?


●3つ目の音符を弾いたとき、左親指をぐっと握りこんだのは、わかりましたか?

 

レッスンで生徒さんに声をかけたとき、こうしたことが認識できていないケースは大変に多いです。

現状どうなっているかを認識できて、はじめて「軌道修正」という行為ができるのです。
バイオリンの練習は、よせてはかえす波のように、修正という作業の連続です。

 

バイオリンを弾くとき、不鮮明な楽譜をがんばって読んだり、必要のない筋肉に力を入れていたりする脳の余裕は、無いのです。体のパフォーマンスが大事という点では、アスリートに似ています。

 

地磁気が100年前より半減した現代の空間では、身体の動かしにくさは殊更増しています。京田辺教室から井手町教室に移ってきた生徒さんには、「こっちの教室のほうが体を動かしやすいです」とおっしゃる方もおられます。

 

 

♫ 発表会のときは暗譜しなさい!と先生に言われるのは、それくらい練習して当然でしょ!という意味もあろうかと思いますが、「読むという行為を減らすことによって、演奏のパフォーマンスの最大化を目指している」といえます。

 

ちなみに私が暗譜を勧めるワケは、脳の活性化につながるから。音楽の情報を耳から入力する力が鍛えられるからです。


バイオリン曲のなかで最も過酷なジャンル、バイオリン協奏曲では、ほとんどの演奏家が譜面を置きません。
リサイタルやカルテットなどでは置いていることが多いですが、あれはお守りがわり。または外部記憶装置として使っています。ほぼ暗譜に近いところまで弾きこみ、身体パフォーマンスを最大化できるレベルまで持っていっていることに、変わりありません。風で楽譜が飛んで行っても、平然と最期まで弾くでしょう。

 

私もお守り/外部記憶装置として楽譜を置きます。運指や運弓、メガネマークや波線(※)以外に、「右肩ゆるめる」「みぞおち開く」など身体をゆるめるための指示も書いています。

 

(※)他パートの動きに注意!という意味。

オケでは、メガネマークは指揮者を見るべし、波線は poco rit の意味。

 

 

 

♫ バイオリンのための「眼」対策は、日常生活の過ごし方でできることも沢山 あります。

 

関連記事:2020.05.05日常生活の中で できる練習

 

現代社会は視覚の能力を下げるものにあふれていますが、特に気になっているのはスマホとLEDです。

 

2020年秋に初めてスマホを持ちました。持ったからにはイロイロ楽しく使ってみようと思い、最初のころは日に1~2時間スマホ画面を見ていました。そうしたところ、「視る力」の急激な悪化を実感しました。

 

①距離が近い
②自然光ではなく人工灯
③直線で仕切られた空間
④奥行がない
⑤(のに)妙にリアリティがある
⑥G4やWiFiの電波が、自分(の手にあるスマホ)をめがけて飛んでくる。脳みそも直撃。

 

そりゃ悪くなるよね!という条件が満載です。

 

③眼前の焦点が合った部分を「中心視野」といい、その外側のぼんやり見えているところを「周辺視野」といいます。中心視野と周辺視野はぼんやりとつながっていて、そうした視界のなかで私たちは生活しています。

読書や勉強のしすぎ、テレビの見すぎが眼に悪いと言われたのは、近距離であることに加え、中心視野のみにフォーカスした体・脳の使い方になるからでしょう。スマホはそれよりさらに、度がいっています。

 

④⑤は、私が一番気がかりな点です。視覚には「奥行き知覚」という能力があり、それにより世界を立体的な質感で見ています。平面を立体的に見てしまうことで、私たちの脳はどうなっていくのでしょう。大変恐いことだと思います。

 

 

◆標題の写真は、楽譜に焦点を合わせ、周辺視野で指揮者を見ているとき。

◆以下の写真は、楽譜から指揮者へ焦点を移したとき。

 

♫ オケで弾くときは「中心視野」「周辺視野」の協調が必須です。中心視野で楽譜を見て、周辺視野で指揮者を見ます。指揮を見てない!と怒られる人は、「周辺視野」が使えていないのです。

 

私も若いころ怒られ、周辺視野を使って指揮者を見る練習をしました。意識すれば誰でも、周辺視野で指揮者を見ることはできます。中心視野と周辺視野が連続している眼の使い方を、日常生活でしていないと、治しにくいかもしれません。

 

オケでは、2人で1つの譜面を見なければなりません。コロナで一斉に1人1本の譜面台になりましたが、プロは1年ほどで戻りました。アマオケでも今年、2人で1本に戻す動きがあるようです。コロナ下で入団した方が、2人で1本なんて知らなかった!私はそれでは弾けない!という悲劇も起きているようです。

 

プロオケでは、公式練習や本番では団所蔵の楽譜を使いますが、かなり大きなサイズのものを使っています。楽譜への書き込みは必要最小限、次回使わない情報は本番後に消します。

 

若い人が多いアマオケでは、1頁がA4サイズの楽譜も見かけます。また書き込みのしすぎで、雑多な情報に溢れすぎている楽譜もあります。弾くほうに脳の処理能力を回したかったら、少しでも視覚処理を減らせる譜面にするのがいいと思います。

 

 

オケピットの仕事は断る、という方にも出会ったことがあります。オケピットの中での仕事は、暗闇の中ほのかな灯りで譜面を読まなければならないため、眼への負担が大きくなります。明るい舞台上より数倍疲れます。またオケピットで弾く演目はオペラやバレエなので、管弦楽曲より神経をすりへらします。

 

オケピットの中で使われる手元灯は、ゲージで明るさ加減を調節する必要があるため、蛍光灯は使えません。これまで主流だった白熱灯は、ただでさえ暑いオケピットを、さらに温めるという難点がありました。LEDになりその点は解消されましたが、眼への刺激は一層過酷になっています。

 

 

♫ LEDの光源も、蛍光灯や白熱灯と比べ、眼に良くありません。最近は夜の巷にあふれている光は、ほとんどがLEDになりました。昼間のLEDより、夜の闇のなかのLED光が大変眼にこたえます。


同志社前~松井山手の移動は、電動自転車を止めて電車に変えました。自転車灯が明るいのはとてもありがたいのですが、文明の利器は必ずしも便利なことばかりではありません。
コロナ直前に井手町へ移転して古民家の離れに住んでいるのに、夜眠るとき窓から漏れてくる外光の強さにはびっくりしています。

 

 

人に勧めてよいのか確証は得られていませんが、メガネはできるだけ使わないようにしています。私の眼は視力が低く、左右差が大きく、乱視などの歪みも大きいため、何時間も小さな音符を読み続けなければならないオケ用に特別なメガネを作ってもらっています。このメガネは、付けたときに視野が大きく変わるため、楽譜とパソコンを見るとき以外は使わないようにしています。

 

読書は裸眼で、テレビは「ピンホールグラス(ピンホールメガネ)を使います。いずれも疲れを感じたら、ハイ!そこまで!という体からのサインだと思って、やることを切り替えます。読書をするときは、自分の右目と左目がかなり違うことを感じますが、その違う状態で眼を使うのは自然なことではないか?という仮説を試している状態です。

 

たとえば脚が動かないのに、杖や車いすなどの補助具を使わない、ということと似ている、と自分では思っています。

 

関連記事:2020.30.19 メガネと眼のはなし

 


♫ 楽譜を眼で読むか、音を耳で聴くかのインプットがないと、「バイオリンを弾く」というアウトプットはできません。指で触れたり、舌でなめたりして、入力することはできません。

 

レッスンでは常に「眼から入れる(読譜力)」「耳から入れる(耳コピー力)」2つの能力のバランスを見ており、バランスが悪いと感じる生徒には弱点を強化するメニューを考えます。

 

私はスズキメソードで育ったので、耳コピー力が高く、読譜力がありませんでした。昔のスズキで育った子は、多かれ少なかれそうでした。昨今は、童謡・唱歌などシンプルで平坦なメロディを子供たちが耳に入れる機会が減り、いきなりポップでクールな曲を耳に浴びて育ちます。大人びた曲をコピーして弾けるのに、簡単な聴音が

できない。そんな子供も増えています。

 

スズキメソードの楽譜には模範演奏のCDが付いています。スズキメソードのCDを聴く手法がベストとは言いませんが、模倣から入るのは、なにを学ぶにしても近道ではあります。科学でも、まず先人たちの功績を覚えます。

 

しかしスズキメソードのCDを聴いて真似するよう助言しても、そう取り組んでもらえないこともあります。ネットに上がっている別の音源を聴いてくる生徒さんもいます。保護者さんからそう伺って、ネット音源を検索して聴いてみたことがありますが、質の良いものに出会えませんでした。やはりスズキ教本付録のCDがいいと思います。

レッスンでCDプレイヤーを用意して、レッスン時間を割いて聴かせることもあります。外部教室でしたらCDプレイヤーを担いで行ったりします。

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