弓の毛替えのタイミング
2022/08/28
一般的に弓の毛替えは、年1回すると良いと言われます。しかし実際のところ、弓の毛は1年やそこらで摩耗したりしません。ではなぜ年に1回毛替えに行くかといえば、
①スティックに対するボックスの位置が戻る
②楽器の定期点検をしてもらえる
③職人さんと話ができる
―弓の持ち方が悪いと、①の意味がありません。
―その場で作業してもらえるバイオリン工房ではなく、預かりになる店舗に持って行くと、③のメリットがなくなります。
預かりになる店舗では料金も割高です。その場でやってくれるバイオリン工房だったら、遠方でも1回の訪問ですみます。職人さんと直にやりとりできるバイオリン工房で、毛替えされることをお勧めします。
●なにをもって毛替えが必要と判断するか?
こちらの記事をご覧ください。
2020/08/20 バイオリン・ビオラ 毛替えの作業について
●うちの生徒さんたち
楽器や弓のメンテナンスにできるだけお金がかからないように考えるので、先生ができる点検や調整は先生がし、生徒ができることは生徒に教えるのが基本方針です。
また方針は、生徒に合わせて軌道修正します。年1回の毛替えを勧める生徒さんもいれば、数年に1回の生徒さんもいます。(もちろん時々弓の状態と意向を確認します)
(例えばレッスンでの調弦も、早くから本人にさせることもあれば、ずっと先生がすることもあります。ペグ調弦を教える生徒もいれば、ずっとアジャスターのままの生徒もいます。生徒本人の意向、意欲、手先の器用さなどをみて、判断します。)
経験者さんがお持ちの道具類には、いきなり踏み込まないことにしています。前の先生の方針もあるでしょうし、ご本人の考え方もあると思うからです。
毛替えの間隔があいた最も極端な例では、「まだ行かんで大丈夫そう」などと先生が言っているうちに、5年経ってしまった生徒さんがおられました。しかし毛替え後に弾きやすくなったかどうか尋ねたら、「特に」との返事でした。
大人の初心者さんで月4回レッスンに通い、練習しないで次のレッスンに来ることはありませんでしたから、週に2時間は弾いていたと思います。職人さんにも「だいぶバラけてるね」と言われたようです。
おおむね1~3年くらいで毛替えに行ってもらっていますが、「毛替えして弾きやすくなった!」という話はあまり聞きません。案外わからないものなのです。
●私がどうしているか
毛替えは半年に一度です。半年に一度にしている理由は、道具類の定期点検と、相談と勉強と情報収集のためです。
・生徒の顎当てをコルクでかなり高くしたけど、そのままで大丈夫か。
・弦を交換するとき、溝に鉛筆を当てるのが面倒くさい。どれほどの効果があるのか。
・毛替えしたてでもないのに、弓の毛がティップの境目でぷつぷつ切れる生徒がいる。
などなど。手帳に書きためて行くこともあれば、思い出した順にうだうだ話することもあります。
毛替えすると弾きやすくなったと感じます。しかしそれは、毛の摩耗がリセットされたというより、毛の伸びのバラツキがリセットされるためと、職人さんの仕事の質がいいからです。
技術力があり、奏者や弓の事情に応じたやり方をしてくれるという2つの理由により、毛替えの度に仕上がりが良くなってゆきます。
・毛種はルッキ
・滑らか目にしてほしいので、ごわついた毛は間引く。間引き率 高め
・棹のテンションが低いので、毛量は少な目。
・棹の特性と、今後半年間の気温と湿度を考えて、張りぐあいを調整。
私の弓を見て「過去」の記憶を思いおこし、「現在」の私の話とミックスして、最適な状態にしてくれます。上記の内容を毎回言う必要はありません。(が、お客さんの情報は多ければ多いほどどんな仕事もしやすいので、自分から自分の情報をうだうだと繰り出します。)
1人のお客さんが支払う金額を考えると、バイオリン工房の職人さんは数百人のお客さんを相手にしていると思われます。自分が、久しぶりの生徒さんのレッスンをする時のことを考えると、すごいことだと思います。