中川恵バイオリン・ビオラ教室

バイオリン・ビオラは どれを買ったらいいか

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バイオリン・ビオラは どれを買ったらいいか

バイオリン・ビオラは どれを買ったらいいか

2021/02/09

バイオリン・ビオラは「どれを買うか」以上に、「どこで買うか」が大切です。
以下の記事も参考になさってください。

(1) 4万円~20万円くらいのセットバイオリン

安い価格帯のバイオリンは、初心者・子供さん向けに、楽器本体・弓・ケースの3点がセットになっています。
たまに松脂が、まれに肩当てや調子笛が付いています。

安い価格帯のバイオリンは、工場で作られています。作っている人々は専門職ではありません。工業製品を作る工場と同じです。

知名度のあるメーカー・ブランド品であれば、どこの店頭に並んでも、品番とロットが同じであればモノ自体に大きな違いはありません。しかしプラスチックや金属でできている製品とちがい、バイオリンは木工品ですから、専門の楽器店や工房で買うほうが確実に安心ではあります。

アジャスターが付いておらず、ペグが回らないバイオリンもあります。それでは調弦ができません。駒が削られていないこともありました。それは楽器とは言えません。

専門の楽器店とは、バイオリン・ビオラ・チェロの販売を事業の柱(の1つ)にしているお店のことです。工房とは、バイオリン・ビオラ・チェロを製作したり修理したりする職人さんが運営しているお店です。

①8万円のセットバイオリン

税込8万円前後の価格帯のバイオリンは、メーカーがしのぎを削っているので、コストパフォーマンスが良いといえます。メーカーもブランドも把握しきれないほどあり、玉石混交です。
私が知っているメーカー・ブランドは、スズキ、ヘフナー、イーストマン、カルロジョルダーノ、ニコロサンティ、エナ、レジン、グリガ、フューメビアンカなどです。

イーストマンは、「欧米ブランドで中国製造」の先駆けメーカーです。
イーストマン以前のバイオリン製造国は、信頼できる工房製は欧州、リーズナブルなものならスズキ、でした。
米イーストマン社が中国に工場を作ったのは1995年。
私がイーストマンのバイオリンと対面したのは2000年ごろ、大阪の工房へ毛替えに行ったときです。
自分の仕事にも他人の仕事にも厳しい職人さんから ”これ弾いてみ” と渡され、その価格と品質に驚きました。

イーストマンの成功に、猫も杓子も中国へ進出。低価格帯のバイオリンは、老舗メーカー新興メーカー入り乱れて、アジアの工場で製造する時代になりました。中国・韓国にはOEM製品だけでなく、質の高い工房製もあります。

レジン、グリガはルーマニア製です。ルーマニアの工房で作られたバイオリンは、価格に対する質が良いと定評があります。

エナ(Ena)は唯一の日本製バイオリン。戦前からスズキブランドのバイオリンを製造していましたが、スズキが国際競争のあおりで製造を中国へシフトしたため仕事を失い、自らのブランドを立ち上げました。
少し本体が重たい個体があります。板が厚めなのでしょうか。戦略として、ライトな印象の外国産メーカーとは違う、弾きこんでいくほどに味わいを増す造りを狙っている、とも聞きました。そういえばスズキの中古にも重たいものがあります。

バイオリン・ビオラは軽いにこしたことはありません。重たいものは選ばないように。


専門の楽器店や工房でバイオリンを買う場合、メーカーはお任せがいいと思います。
私のバイオリン教室でも生徒さんからメーカーを尋ねられることがありますが、低価格帯のメーカーは山ほどあり、且つ木工品で個体差もあります。生徒さんの好みもあり、先生お勧めのメーカーはありません。先生お勧めのバイオリン工房・専門の楽器店ならあります。(目的によりお勧めするお店はかわります。)

様々な楽器を扱う楽器店に置いてあるのは、利益率が高いか、たまたまご縁のあったブランドかもしれません。そうした店舗でバイオリンを買うばあいは、メーカーを指定してもいいと思います。

♪恵那楽器(エナバイオリンを作っている工房)

②8万円より安いセットバイオリン

8万円より安いセットバイオリンを新品で探すなら、
・8万円(以上)のセットを作っている
・実店舗で売られている
メーカーをお勧めします。
8万円より安いバイオリンしか作っていない会社のものは、やめましょう。

前述のカルロジョルダーノには4万円台のセットがあります。8万円は出せない、というばあいは、カルロジョルダーノのように高価なバイオリンも作っているメーカーの安いものを選びましょう。ただしカルロの卸し業者さんも、4万円台はお勧めしないと言ったそうです。

中古であれば、正価8万円のセットが、5万円ほどで売られています。その値段以下の中古品は、避けた方がいいでしょう。
弦を交換しているか、いい弦を張っているか、弓の毛を張り替えているか、によっても値段は変わります。弦も毛も古いままだから3万円、という品もあるかもしれません。

また様々な楽器を扱う楽器店で、値段に値しない中古バイオリンが売られているのを何度か見かけました。あまりのひどさに怒りを感じたこともあります。そうしたお店で購入するばあいは、新品が安全と思います。

③8万円より上のセットバイオリン

どのくらい上の価格帯までセットがあるかは、メーカーにより違います。
8万円セットにフェルナンブーコ弓が入らなくなってきたこともあり、8万円クラスでも本体・弓・ケースをばらばらに選べたりします。

同一メーカーのセットバイオリンの値段の違いは、材料の違いで、製造工程は同じだそうです。

(2) セットバイオリンを買うときの知識あれこれ

①弦について

低価格帯のバイオリンには、安い弦を張って値段を下げているものもあります。一般的にはドミナントという弦を張ることが多く、10万円以上くらいのバイオリンは大抵ドミナントです。8万円セットになると安い弦が見られるようになり、それより安価なバイオリンや中古品だと安い弦が張ってあります。

イーストマンやレジンにはドミナントという弦が張られていますが、エナにはプレリュードが張ってあります。プレリュードとは、コストパフォーマンスに優れたダダリオ社のスチール弦で、テールピース側が紺色になっています。人件費の安い国で製造された楽器と、競争しなければならないからでしょう。プレリュードは、分数バイオリンや中古バイオリンにもよく使われています。
マックコーポレーション社が扱うカルロジョルダーノやニコロサンティの7万円未満セットには、トマスティーク社のアルファユーという弦が使われています。カルロもニコロも、上位機種はもちろんドミナントです。

ドミナントと安価な弦では、「音の鳴り」や「弓のこすりやすさ」が違います。ニコロサンティの最低グレードでは、アルファユーを張ったセットのほか、ドミナントを張ったセットも販売しています。価格差は4400円。この差をどう考えるかは人それぞれですが、弦の質がかなり違うことは確かです。セットで8万円クラスのバイオリンは、安い弦からドミナントに替えるだけで響きが良くなります。

②弓について

2015年ごろ、8万円セットの弓の材料が、フェルナンブーコからブラジルウッドへ置き換わりました。環境保護による伐採規制が強まったのです。

フェルナンブーコに比べると、ブラジルウッドは腰がなく弾きにくいです。当時私が教えていた楽器店で バイオリンを購入した生徒さんはみなカルロでした(たぶん利益率が一番高かったのでしょう)が、規制の前後で弓の質に大きな差が出てしまいました。レッスンの時間内であれば、購入するバイオリンを先生に見てもらうことは、どこの楽器店でもできます。ぜひそうしてください。

切り替え直後のカルロ弓は、かなりへにゃへにゃでした。木材の品質は一定ではないのですが、アタリのブラジルウッド弓より、ハズレのフェルナンブーコ弓の方がいいと思います。
8万円より安いセットは前からブラジルウッドでした。メーカーによって違いますが、10万円を越えるセットになるとフェルナンブーコが多いです。

通常セットものは、弓だけ違うものに替えることはできませんでした。しかし最近は、プラス料金を払えばフェルナンブーコ弓にかえれるメーカーが増えているようです。

数千円で品質の悪くないカーボン弓も登場しています。今後安い弓の主流は、ブラジルウッドからカーボンへ変わっていくかもしれません。ただカーボン製は登場してから歴史が浅く、経年劣化でどう変わるか未知数です。ブラジルウッドより寿命が短いでしょう。しかし続くかわからない習い事の選択肢としては、悪くないと思います。

③表板・裏板のカーブについて

昔々バイオリンの表板・裏板のカーブは、人が削るか、プレスして曲げるかでした。「欧米ブランドで中国工場」というビジネスモデルが成功したのは、削り出しの成型ができる工作機械が登場したからでもあります。最終仕上げは人の手ですが。

現在でも安価なバイオリンはプレスです。削り出しとプレスの値段的な境目は、3万円セットあたりだと思いますが、一概には言えません。また削り出してからプレスするなど、いろんな加工手法があるようです。

プレスは音響的に、削り出しにはかないません。
見ても素人目にはわからないのですが、音に表れます。
私が小6のとき親が買ってくれたプレスのバイオリンセットは20万円したそうですが、音色はイーストマンに負けています。が~~ん!
弓はさすがにいいです。セットで販売されるグレードのバイオリンは、本体をより良くするため、弓にコスト削減のしわよせが行っているのです。

④値段について

セットバイオリンは、割り引かれて売られていることが良くあります。しかし買うときの値段差より、その後にかかってくるメンテナンス費用の差のほうが、大きいでしょう。長く使うことになる大人サイズのバイオリンは、特にそうです。

業界の慣習として、自分の店で売った楽器のメンテナンスや修理は安くします。最初に売る値段の安さで勝負しているお店より、アフターフォローが安心できるお店がいいと思います。

また業界の慣習として、自分の店で売った楽器は、持ち込まれただけの楽器より、高く下取りします。

⑤新作のバイオリンを買うとき

新作のバイオリンやビオラを買うとき、重いと感じるもの、大きいと感じるものは避けましょう。重さや大きさは、家に帰ったときの方が、重たく大きく感じます。

メーカーやブランドによる違いだけでなく、ロットや年代ごとの傾向もあります。途中で製造拠点が移ったり、スペックが変わったりして、材料や作り方は変わってゆくからです。

⑥中古のバイオリンを買うとき

エイジングにより、値段は下がっているのに、コンディションは良いものが手に入ることもあります。

ただし瑕疵が隠れていることもあります。工場製の新品は、メーカー補償がありますが、中古にはありません。安心安全に買おうと思ったら、専門の楽器店や工房にしましょう。新作に力を入れている専門店でも、ときどき中古の掘り出し物が出ることがあります。

ラベルは当てになりませんので、新作バイオリン以上に、どこで買うかが大切です。

(3) 10万円~40万円くらいのバイオリン

セットバイオリンで知られているメーカーも、セットではない、セットより高い価格帯のバイオリンを作っています。言い方を変えれば「上位クラスの楽器が作れる技術力があって、商売として8万円セットを作ってる」ということです。8万円以下のものを買うときは、そういうメーカーのバイオリンにしましょう。

また、数十万円~ の質のよいバイオリンを作っている小さな工房も、世界各地にあります。数十万円で探すなら、8万円セットに力を入れているメーカー製ではなく、工房製にしましょう。そうしたバイオリン・ビオラは、専門の楽器店へ行くと、よくあります。この価格帯では、ルーマニアのモガというブランドを、生徒や友人に勧めたことがあります。

(4) 40万円以上のバイオリン

まず新作かオールド(モダン含む)かを決めるとよいと思います。新作が好きだったり、おめあての製作者さんがいるのでなければオールドをお勧めします。40万円台だと出物が少なく、予算を50万円台まで広げると選択肢が増えます。

どこの国のものがいいか考えてみても良いかもしれません。やはり国ごとの傾向や雰囲気というのはあります。
日本ではイタリア製への信仰が強いため、イタリアのバイオリンは割高です。値段的には新作もオールドもお勧めしません。

一時期40万円台のフランスのオールドがよく出ていました。大阪のバイオリン工房へ毛替えに行くと、職人さんが待ち構えていて、値段をふせたまま試奏して評価を聞かれました。あの頃は毛替えを待っているあいだ、数十万円~数百万円のバイオリンを弾いて、「私だったら いくらなら買ってもいい」か決めるのが仕事でした。

オールドでなく新作を考えるなら日本製はいかがでしょうか? 国内の中堅の職人さんの楽器製作のレベルは大変高いです。値段に対する質を考えると、イタリア製よりずっと良いと思います。イタリアの職人さんは欧米人が使うイメージを描いて作っておられるでしょうが、日本の職人さんは日本人が使うことをイメージして作っておられます。(そうでない人もいるけど)
直に会いにいける人が作ったバイオリンを持つというのは、素敵ではありませんか! メンテナンスも超安心です。


(2) ⑤でも述べたように、中古には素人目にはわからない瑕疵があることがあります。値段が適正かどうかも、素人にはわかりません。信頼できるお店、信頼できる人から買いましょう。
あとは自分が、その楽器が好きかどうか。高い楽器を買うときのポイントは、この2点と言っても過言ではありません。

目で見て、色や形が気に入るものにしましょう。
触ってみて、好きだと思えるものにしましょう。
弾いてみて、音色や振動が心地よいものにしましょう。
好きか嫌いか、ピンと来るものにしましょう。
恋人や伴侶を決めるときと、同じです。


耳元で聴こえる音が好きか、が 何よりも大切ですが、少し離れたところからどう聴こえるかも確認しましょう。
お店の方に弾いてもらってもいいし、知人を強制連行してもいいでしょう。
先生に相談してみてもいいかもしれません。
私も何度か同行したことがあります。

同じ楽器でも、違う人が弾くと 違う音が出ます。楽器のポテンシャルを知るという意味では、自分より上手な人に弾いてもらえたらいいですね。専門の楽器店のスタッフには、音大のバイオリン科を出られた方もいます。そうした方に弾いてもらえるようお願いしてもいいかもしれません。

値段が納得のいくものかどうか、確認するひとつの方法は、他の楽器と比べることです。
いま使っている楽器と比べる。友人の楽器と比べる。候補の楽器を弾き比べる。

ここで楽器を買わなかったら、そのお金でなにが買えるか想像してみる。
また100万円で買ったあと、本当は50万円だったと発覚しても、「自分には100万円の価値があった」と思えるかどうか。

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